雇用契約書の重要項目チェック・リスト

2013年10月11日

NICHIGO PRESS 10月号 労働・雇用法弁護士 勝田順子の職場にまつわる法律の話

第2回 雇用契約書の重要項目チェック・リスト

 

 雇用契約の内容は、その雇用が終了するまで日々の仕事に影響するものです。今月は、後のトラブルを回避するために気を付けたい雇用契約の重要項目を、雇用者と従業員のそれぞれの立場からピックアップしてみました。

 

雇用者のためのチェック・リスト

 

□ 解雇できる権利

 オーストラリアでは解雇は難しいと言われますが、その要因の1つには、雇用契約書で雇用者がいつ従業員を解雇するか述べていないことが挙げられます。契約書に「こんなことをしたら即日解雇しますよ」とあらかじめ書いておきましょう。例えば、職場での悪態・暴力・暴言、無断欠勤、飲酒状態での勤務、盗み、セクハラ行為など。パフォーマンスに関しても要求する基準をあらかじめ定めておくことで、比較的容易に解雇できます。

 

□ 解雇・辞任通知期間

 雇用契約に限らず、終了する時のことも考えて契約を結ぶのが常です。解雇する時に必要な通知期間や方法を決めておくことで、解雇の手順が簡単になります。

 

□ 守秘義務

 日本でも話題になっていますが、従業員の写メールやSNSの利用を通して機密事項が漏れたり、会社が風評被害に遭ったりという事件が増えています。一方で、従業員の勤務時間外のSNS利用について契約書や内規であらかじめ述べていないと、会社が制約をかけることができないという判例も出ています。守秘義務やSNSの利用に関しても、契約書に盛り込んでおきましょう。

 

□ パフォーマンスの基準・職務内容(job description)

 雇用者が従業員に求めるパフォーマンスの基準や職務内容を明記しておきましょう。雇用者側の期待値を従業員に伝えておくことで、その基準に達していない時の対応がスムーズに行えます。また、職務内容は、整理解雇する時や、アワード上の最低賃金を特定する時に必要です。

 

□ 社内規則

 社内規則も契約書内に明記することで雇用契約の一部として初めて法的実行力を発揮します。社内規則を持つ会社は、社内規則を雇用契約の一部とするようにしましょう。

 

従業員のためのチェック・リスト

 

□ 実際の給与や報酬

 給与や年俸の金額だけに目を向けがちですが、ほかの要素を考慮して提示額が妥当かどうか検討する必要があります。例えば、(1)スーパーアニュエーション(グロス給与の9.25%)は提示された金額に含まれているのかどうか。含まれているのであれば、提示金額を1.0925で割った金額がグロスになります。(2)残業代や休日出勤手当が出るのか。豪州では特定の職種の最低労働基準を定めるアワードがない限り、雇用者は「残業代や休日出勤手当を含めた年俸」を提示することができます。

 

□ 副業に関する規定はあるか

 パートタイム勤務の場合や、デザイナー、ライター、エンジニア、翻訳者などフリーランスとして活動しやすい職種の場合、ゆくゆくは副業を考えることも十分考えられます。その時に、何かしら制約が出てくるのかを知っておく必要があります。一般的な例としては、「副業に費やしていい時間は週8時間まで」とか、「副業を始める前に雇用主に書面による合意を得なくてはいけない」「雇用主の競合他社で働かない」「雇用主の顧客と接触しない」というものがあります。

 

□「Entire Agreement」の項目が契約書に書かれている時は注意

 「Entire Agreement」は、契約書の終わりから2、3番目によく書かれている項目です。たいていの場合、「この契約書に書かれていることだけが雇用者と従業員が合意した内容です」という趣旨になっています。つまり、求人広告の文言や面接での雇用主の発言、雇用前のEmailでのやり取りなど、契約書に書いていないことは、雇用主は一切実行する義務がありません。もしあなたが、雇用主が示唆した“ビジネス・ビザ・スポンサー可”“フルタイムへの登用あり”“在宅勤務可”“昇給/ボーナス”“将来のプロジェクトへの参加”などに重要な意味を見出して就職を決めるのであれば、それは契約書に入れてもらうようにしましょう。

 

【雇用法Q&A】


Q: 雇用契約はいつ成立するのか?
 職場でトラブルを抱えた方から「契約書を交わさなかったので、雇用契約はないんですけどどうすればいいでしょうか」とよく質問されます。「オーストラリアは契約社会」などと言われていますから、契約書を交わさないと正式な契約がないと思いがちのようです。しかし、雇用契約は口頭でも成り立ちます。さらには、賃金の受け取りを前提として働いた労働行為のみでも雇用契約は成り立ちます。ポイントは、雇用関係を持つという「当事者間の意思の存在」があったかどうかです。契約書がないからといって焦る必要はありません。このような問題で悩まれた場合は、まず弁護士にご連絡ください。

 

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