職場でのいじめついて

2013年12月7日

NICHIGO PRESS 12月号 労働・雇用法弁護士 勝田順子の職場にまつわる法律の話

第4回 職場でのいじめついて

 

 職場でいじめにあったらどうしますか?オーストラリアにはこれまで「職場でのいじめ(Workplace bullying)」そのものを処罰する法律はなく、法の力では対処することが難しい問題の1つでした。このような状況を変えるべく制定されたのが、今年初めに可決された「フェアワーク改正法」(以下“改正法”)です。改正法の下では、職場でのいじめは違法とされ、いじめを受けた労働者は、連邦政府機関であるフェア・ワーク・コミッション(Fair Work Commission。以下“FWC”)に提訴し、訴えが認められるとFWCが雇用主に命令書を発行できるようになります。改正法は2014年1月1日から施行されます。FWCは年間3,500件ほどの申し立てがあると予測しています。

 

想定される“いじめ”とは?

 

 職場に特有のいじめにはどのようなものがあるのでしょうか。考えられる例としては、上司が部下へ仕事を依頼する時に不当な期限を設定したり、サービス残業の強制や頻繁なスケジュールの変更、または能力を発揮することができない仕事の依頼などがあるでしょう。

 

 私自身もたまに事務所の弁護士にコピーを頼んだり、能力以下の仕事を頼んだりします。問題となるのは、これらの行為が不当に繰り返し行われている時です。何が不当でいじめなのかは主観的な要素を含むため、雇用主の依頼が頼み方1つでいじめと受け取られてくる危険があります。「この調べものをしてほしい。パラリーガルでもできるのは知っているけど、これが大事な調査だからあなたに任せたいんだ」というようにひと言添えると全く印象が異なります。

 

いじめと悪い経営体質の境界線

 

 先にも述べた通り、いじめは主観的要素を持つもので、定義づけが容易ではないことは既に専門家の間で指摘されています。例えば、上司が部下に取る理不尽で無作法、気難しい態度などはいじめと呼べないかもしれません。いじめの申し立てはマネジメント力が低い管理職や相性の合わない人に向けられるべきではありません。

 

 いじめと管理職のマネジメント能力の境界線がどこで引かれることになるのかは、この先判例で基準が示されるまで分かりません。職場のいじめを主張する裁判は、複雑なものになるでしょう。

 

雇用主が行うべきこと

 

 14年1月1日の施行を目前に控えた今、雇用主は職場でのいじめの防止や発生時の対応について社内方針を再検討する必要があります。具体的には、組織内の管理職がほかの労働者にいじめと捉えられうる言動を取っていないか振り返り、代わりに建設的なマネイジメントを行うように教育すること。また、社内での不適切な行動について早い段階で上司か適切な担当者へ相談できる風邪通しのよい職場環境を整え、労働者が不満を募らせてFWCなどの外部に行動をとる前に雇用主が対応できる環境を作ることです。

 

 また、それらの方針を就業規則などに文書化し、従業員への周知を徹底することで制度として機能するように併せて行うといいでしょう。良い方針を掲げても制度が利用されないようでは、裁判の審議の場面で雇用主がいじめを放任したとして雇用主にマイナスの要素となります。

 

 制度が確立されていない現段階では、改正法が労働者のあらゆる不満の掃き溜めとなるかもしれず、制度を濫用する労働者も必ず現れるだろうと言われています。そのような行動に労働者が出なくていいように、雇用主は1歩先を進んで対策をする必要があります。

 

煩わしいリスク管理と捉えるか、良い職場環境作りのきっかけにするか

 

 こういった類の新法に対応する過程は、雇用主にとってはリスク管理の側面が大きく、往々にして経費や時間のロスと捉えられがちです。2年前には労働安全衛生法も大幅に改定されましたし、雇用主へ多大な努力が求められているのは重々承知の上です。

 

 私がよくクライアントにお伝えするのは、法改正をきっかけに社内方針を見直すことで管理職のマネイジメント能力を高め、また良い職場環境を作る1つのきっかけとしていただきたいということです。良い環境で働いていると従業員自身が感じている職場は、従業員の離職率も低く、忠誠心やパフォーマンスも高いという調査結果が出ている事実もあります。リスク管理という概念を取り払って、ポジティブな姿勢で改正法に対応していただきたいです。

 

改正法3つの要点
● 14年1月1日以降、労働者が職場でいじめを受けたと自らが合理的に判断する場合は、FWCに申し立てを行い、雇用主へのいじめの停止命令やそのほか適切な対処を求めることができる。ただし、FWCは賠償金支払いを命じる権限はない。

●「労働者」には会社が雇用する従業員をはじめ、請負業者、下請業者、見習い生、実習生、ボランティアなどを含む。またいじめる側といじめられる側が同じ職場に勤務するか否かは問われない。

●「職場でのいじめ」とは、ある人、またはあるグループが職場において特定の労働者に繰り返し嫌がらせを行い、その労働者の健康と安全を脅かすかそのリスクを作ること。ただし、合理的な範囲内での人事管理や監督はいじめではないとする。

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