職場のセクハラ訴訟事情

2014年9月15日

NICHIGO PRESS 9月号 労働・雇用法弁護士 勝田順子の職場にまつわる法律の話

第9回 職場のセクハラ訴訟事情

 

 2014年8月12日、VIC州最高裁が、職場でのセクハラの損害賠償命令としては異例と言える50万ドル(約4,500万円)の支払いを雇用主と加害者の従業員に命じる判決を出しました。賠償額の大きさもさることながら、加害者が個人的に手配したホテルで起きたセクハラ行為の責任を雇用主が問われたことも特記すべき点です。当判決は、賠償金の額や職場のセクハラの定義に関連する近年の流れを象徴しているとして雇用法弁護士の間でも注目を集めています。

 

1.セクハラ賠償金の内訳と相場

 

 冒頭の判決が出る前にも、セクハラ訴訟の賠償金額を上昇修正する判決は出ていました。

 

 「僕たちこんなにいつも言い合いになるなんて、前世では夫婦だったんじゃないかな。夫婦だったとしたらセックスはアツかっただろうな」

 

 上司からこのような言葉によるセクハラを受けていた女性従業員が、セクハラを避けるために辞職し、元上司と雇用主を訴えました。連邦高等裁判所は、精神的苦痛への賠償として1万8,000ドルの支払いを命令しましたが、女性従業員は金額が不十分であるとして控訴しました。控訴審は、セクハラから受ける精神的苦痛は非常に大きいという世論を汲み取れば1万8,000ドルは低過ぎるとし、また、被害者が失った生活の中の楽しみ、被害者の夫婦関係に悪影響を与えたことも考慮して、賠償額は10万ドルと大幅に修正しました。さらに、女性が辞職後に低い給与の職に就いたことは、セクハラが原因であるとその因果関係を認め、給与の差額の3年分に当たる3万ドルを経済的損失として、計13万ドルの支払いを命令しました。

 

2.「職場」の定義の拡大

 

 雇用主は、職場で起こるセクハラ行為の責任を問われますが、この「職場」の解釈も近年拡大されてきています。例えば、「仕事の話を場所を変えてしよう」と上司が部下をパブ誘った時に起こったセクハラも「職場」と認定されました。ノートパソコンや携帯電話でどこでも仕事ができる時代にあるため、自宅勤務中やタクシーの移動中などいろいろな場所で「職場」のセクハラが起こり得るという判決が出てきています。冒頭で述べた50万ドルの賠償命令が出た事案では、ホテルでノートパソコンを使って仕事をしていたために「職場」と認定されました。

 

3.今後も増えるであろうセクハラ訴訟

 

 損害賠償金の相場が上昇し、定義が拡大解釈される傾向にあるということは、勝訴の可能性が広がり訴訟を起こす価値が高まるということでもあります。これら近年のセクハラ訴訟の動向を受け、今まで泣き寝入りをしていた被害者も裁判で雇用主を訴える事案が増えると予想しています。

 

4.雇用主に求められること

 

 これらの判決は、職場のセクハラ対策がビジネスのリスク・マネジメントの1つであり、真剣に取り組みなさいという警告ともいえるでしょう。具体的には、セクハラに関する社内規則の制定、従業員や管理職への規則の周知と教育、セクハラを排除する職場環境づくり、セクハラの通報を受けた時の迅速で適切な対応を社内制度として整えて実行することなどが挙げられます。

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